相席屋に行った話

長いです。

 

先日、同期に連れられて初めて相席屋というものに行った。前々から誰がこんなところに行くんだと思っていたら、まさか自分が行くことになるとは思わなかった。

 

しかしその日は平日なのもあってか行く店行く店、女の子が全くいなかった。僕はもう普通の飲み屋でいいんじゃないかと思ったが、最低でもラインの交換くらいはしたいと血走った目で同期が言っていたので、今日はとことん付き合おうと覚悟を決めた。4軒目くらいでようやく女の子がいる店を見つけた。しかも相手も2人で現在男もいないということだったので、すぐに店に入ることにした。

 

相席屋にいる女の子というのは正直見た目も派手で遊び慣れてる人が多いのだろうと勝手に想像していたのだが、想像とは違い相手は本当に普通の女の子2人だった。席について簡単に自己紹介をして今やっていることだとか趣味などを話した。僕は寺の後継ぎなのだが基本的に初対面の人にも隠したりはしないので(全てのことを話すわけではないが)実家の宗派などのことを簡単に話したら意外と食い付きが良く興味を持ってくれた。

いい時間になったのでライン交換を振ったら快くOKしてくれて、その日は別れた。こんなに上手くいくもんなんだなと思いながら同期とニヤニヤしながら帰路に着いた。帰宅した後、今度の休みに4人でごはんに行かないかとさっそく連絡が入った。僕はOKと返事をして少しドキドキしながら眠りについた。

 

次の休みの日、指定されたモールのフードコートに同期と向かった。

こっちだよ!と手を振られた方を見る。

3人いた。知らない女性が増えていた。

え、誰?と思いながら席に着いたら、知らない女性は満面の笑みで、Yです。と名前だけ教えてくれた。巨乳だった。

疑問に思いながらもお腹が空いていたのでとりあえず昼食を取った。

 

食べ終わった後に軽く話しをしていたら、女性の一人が目をキラキラさせながら言った。

 

「お寺の方なんよね?実は私達も小さい頃から家族で朝晩、勤行とかしてるんよ。○○様のお徳を称えてね、毎日となえることによって○○が発生してね、本当に幸せなの。隣のこの子も今が本当に幸せでね、これも全て○○様のおかげなんだけど昔は荒れてて結構ひどい時期もあったんだけど私が紹介して実践してからは毎日が変わったみたいで今は本当に心の底から仲良くできてるし信頼できる仲間になったしやっぱりこれって○○様のお力がすごいおかげなの私達が今できることはこの教えや力を日本中に広めることで浸透したその時が日本が真の平和になることを確信していてそのためには早くみんなに知ってもらわなきゃいけないと思ってて例えばこの教えってこんな力もあって」

 

 

 

 

あ、これ勧誘だ。ってワンテンポ置いてから気付いた。急に始まったので、一瞬何が起きたのかわからなかった。

そこからノンストップ3時間の勧誘。教科書をそのまま延々朗読するような意味がわからない単語を交えた文章を読み続ける女性。なんでお店じゃなくてフードコートなんだろうと来る前に思っていたがこういうことだったのかと、ようやく理解した。

彼女らが信仰している宗教は、おおもとになっている仏を崇め、功徳を積めばどんな願いも叶うというものだった。

僕も一宗教者として、簡単に他の考え方や信仰を否定はしたくなかったので、まじかよと思いながら黙って聞いた。

けどあまりに出てくる奇跡の数々。ガンが治った、災害で助かった。家族と再会できた。その奇跡をあまりに自慢してくるので、ガンが治った人って知り合いとかにいるんですか?と聞いた。

「あ、私の友達治りましたよ〜」

巨乳が言った。軽い。あ、お風呂沸いてますよ〜、ぐらい軽い。

信仰してる人は病気では死なないんですか?と聞いたら、功徳が足りないなら死にますよ!とバッサリ切られた。乳が揺れる。

僕「ちゃんと拝んでても功徳足りなかったら治らないんですね」

巨乳「そうですね、死、ですね」

僕「死、なんだ」

 

死だそうです。

 

彼女らの宗教では功徳を積めなかった人の遺体はすごく黒くて硬いらしい。

彼女らのうちの一人は、おじいちゃんが亡くなった時に功徳が足りなかったのか、遺体が黒くて硬くなったらしい。(家族全員でちゃんと朝と晩に勤行してたのにね)

それを他の家族全員で遺体に向かってお経?をとなえると、遺体がみるみる白くなって柔らか〜くなったらしい。頭の中で解凍されていく鶏肉の映像が流れた。

 

そのような話がずっと続き、反論してもツッコミを入れても、それは教えが理解できてないからですよね〜と巨乳が笑いながら言うので、3時間経った頃に半分キレながら

 

君たちは完全に自分のことしか頭にない。これだけ長時間話し続けられる情熱は本当に見習うべき所だし想いも伝わってくるけど、この3時間話してきた言い方は宗教をまず置いといて人としておかしいんじゃないか。意味不明な単語の羅列、理解している前提での説明の仕方、相手の考えをまず否定から入る、勧誘する立場としては最悪だと思う。自分が何年間も愛着を持って使ってきたものを根本から否定されて、いい気分になるやつがいると思うか。まず自分の考えじゃなくて相手の立場とか気持ちとか知ることから始めないとどうしようもない。あと1時間前からトイレにも行きたい。

 

と立て続けに言ってしまった。数年ぶりにあんなに怒ったと思う。

そうしてようやく解放された僕と同期は元葬儀屋の先輩を誘い3人で飲みに行き、先輩に事の経緯を話した。

 先輩も葬儀屋時代に彼女らの宗派の葬儀を何度か担当したらしい。遺体に全員で手を当て念仏を唱えながら柔らか〜くなるのを待っていたらしい。

 「あれ、遺体が温まって腐っちゃうからやめてほしいんよね」

先輩は何とも言えない顔で言った。

白くなるのは何でなのか話し合った結果、遺体が空気を読んでくれたから。という結論に至った。

遺体に気を使わせるんじゃないよ。と思った。

 

終わりです。