オジギソウと狐の話



うちの庭は色んな植物が生えていて手入れをさぼっているとあっという間に雑草が増えて手がつけられなくなる。


先日業者も呼んで大規模な庭の手入れを行なった。僕はオジギソウという草が生えているエリアの雑草を抜く担当になった。


オジギソウとは手で触ると葉っぱがゆっくり閉じる草で、大人にも子供にも大人気の草である。

お参りに来た家族の子供に「あの草ちょっと触ってみ」と促して触らせると9割は喜んでくれる。この前も通りすがりの女性のお客さんがオジギソウを触ってキャッキャとはしゃいでいて、「面白いですよねー」と言いながら心の中で(ありがとう)と言いました。


そのオジギソウ周辺の雑草を抜くのだが、オジギソウの群生しているところに、触っても葉っぱが閉じない草があることに気付いた。

調べてみるとコミカンソウという草のようだった。見た目はオジギソウにそっくりで、オジギソウは種を植えて育てているが、コミカンソウは雑草だった。

隣で草むしりをしていた母が「擬態してるつもりなんかね」と言いながらコミカンソウだけをぶちぶち抜いた。僕はそのコミカンソウを見ながら、ふと頭の中に「虎の威を借る狐」の言葉が浮かんだ。



僕が通っていた高校は、元は工業高校で入学の少し前に共学になった学校だった。なので僕が入学した時は女子はほとんどおらず、ヤンキーが教室にひしめき合うような状況だった。


幸い僕はあまり人見知りしない性格なので、ヤンキーでも割りと普通に話せて友達は自然と増えたのだが、ヤンキーは身なりのことをよくからかう節があり、仲良くはなったが髪型のことや眉毛の濃さ、ズボンの丈を上げすぎだ、など度々言われた。それが煩わしくなってきたのと、周りに馴染むために腰パンをしたり眉毛を剃ったりしていた。


その後たまに中学の友達と久しぶりに会うと、風貌が変わった事に驚かれたり、ヤンキーの友達が多い事などで一目置かれたりして僕の中で変な高揚感が生まれた。ヤンキーの真似をして輪に入ることで自分の事を大きく見せようとしたのである。まさに僕は虎の威を借る狐だった。


そんなことをコミカンソウを見て思い出した。こいつは僕だ… と思いながら少しだけ手に力を込めてコミカンソウを抜いた。


終わりです。